お便り

書簡(玉塚充様)

西川祐子様

古都の魅力を訪ねて、先ごろ友人に誘われ、鎌倉のお寺で、平家の赤旗を拝見する機会がありました。言い伝えによると、源平合戦後、鎌倉に引立てられた平家の最後の大将が持っていたもので、歌舞伎の舞台でよく見る、目が覚めるような赤色ではなく、時の風化に耐え、わずかに赤が滲んだ灰色の古代布でした。頼朝は自分の屋敷で、平家の大将と対面しましたが、御簾ごしに距離をとって、大将からは頼朝を見ることができなかったと言われています。ちなみに、頼朝の屋敷跡は清泉小学校があるエリア。時代のトップとはいえ、敷地の広さには目をみはる様です。

散策を共にした友人が鎌倉育ち故に、道中『この家はラストエンペラー溥儀の弟が住んでいた処』等、種々教えてくれて、変わらぬ町並みと多層的なイメージの重なりに、濃密な鎌倉散歩を楽しみました。

閑話休題。

今秋、祐子先生は茶会と朗読をフィーチャーした、新しい舞踊公演『遊の会』を立ち上げます。私は、企画プロデュースを勤めさせて頂きます。これまで日本舞踊と朗読の作品は手がけましたが、お茶は初めてです。この上は、ご縁の不思議に想いを馳せ、礼を尽くし楽しみながら勤めさせて頂く所存です。

お客様には、祐子先生による日本舞踊の古典をお座敷で鑑賞頂き、ゲストの篠井英介氏による『茶の本』の朗読やトーク、富山清仁氏の邦楽演奏、そしてビギナーのための茶会等、多層的プログラムで、日本文化を立体的に味わえる世界観の実現を目指します。

今回の公演は、都内の隠れ家的な茶寮を舞台に、通常は足を踏み入れることがない空間で実施されます。当企画を継続してゆく事を通して『遊の会』が、“古代と未来をつなぐ浮橋”になり、芸術を使った心の瞬間移動を参加者に堪能してもらえる様、私なりに真心をこめて勤めます。それには、鎌倉散歩に見た十年一日の伝統の良い面と、変わるからこそいき永らえるという両面を念頭に開発できればと考えています。

祐子先生はじめ皆様と共に、新たな独自の実験場『遊の会』の創造に向かって、今からワクワクしています!

ぜひとも、祐子先生のいまの心意気を、シェアして頂ければ幸いです。

玉塚充(タマプロ)

コメント

    • 西川祐子
    • 2024.08.01 11:06am

     玉塚 充 様

     お便り有難うございました。6回は続けてみようとお約束した『遊の会』の着地点が、日本舞踊の未来への足掛かりになるといいなと思います。お便りに書いておいでのように、伝統文化のどこを大切に残し、どこは変化を恐れず時代に合わせていくか、それを知る上でも事実上そうなっていくためにも新たな試みが必要です。
     メディア・チャパの今井さんに、〝何故、人類にだけに芸術が必要なのか?″との質問を投げかけられたことがあります。大変大きなテーマで、生物学から哲学にまで亘る広範囲な考察を要する課題ですが、私のように芸術を標榜し実践している者が自己の存在意義に対してどのような自覚を持っているかを問うたものであろうと思います。舞踊について言えば、演技者の身体表現の巧拙は、舞踊を知る知らない如何に関わらず殆どの人が共通に感じ取れます。おそらく、美しいあるいは心地よい立ち居振る舞いや一挙手一投足に対する、その時代の共通の価値観が存在するのでしょう。ここに立脚し、観る人に如何にして語り掛けるか… 直接の共感やその先への物語の敷衍が観客の心の中に沸き起こってくれるよう、あくまで自己を表現の媒体として、鑑賞している個々の方々が一時の虚構の世界に没入できる場(舞台)を目指しています。
     言う迄もありませんが舞踊公演は総合芸術なので、舞台そのものも重要な要素の一つと考えています。しかしながら国立劇場はじめ、日本橋劇場、紀尾井ホールなど、日本舞踊公演のお客様にもお馴染みであった劇場が次々に閉場、改築となっています。場の縮小に伴い、公演の一時的な機会損失はある程度あるでしょうがこれを逆手に取り、´踊る場・プログラム(内容)・お客様との距離感´を改めて肌感覚で探ってみようと、敢えてこの時期に立ち上げた『遊の会』です。玉塚さんはじめ、高橋さん・清水さん・伊藤さんと、力強い仲間がいてこそ出来たプロジェクトです。深謝いたします。
     訪う人が何がしかに思いを馳せる鎌倉のような場になることを願いつつ、拙文お返しいたします。

    西川祐子

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