お便り

書簡(鎌田るりこ様)

 祐子 様

 小学校から高校までの12年間を女子校で共に過した友にこのような形で手紙を書くのは気恥ずかしい気持ちです。
稽古場が市谷台町に移られる前は、ご近所で祐子さんのお家が大好きだった私は、六本木3丁目のお宅にしょっちゅう遊びに行かせていただいており、ご両親様はもちろんのこと、内弟子さん達にも優しくしていただきました。
祐子さんは学校でもご自宅でもいつも優等生、背筋はまっすぐ、真面目を絵にかいたような方でした。そして今も・・・
なんでこんないい加減な私と長年お付き合いして下さっているのか不思議ながら有難く思っています。
ある時、祐子さんがお父様の事を「宗家」と呼ぶようになったのに気が付きました。
その時、あ~この人は芸の道を進むのだな…と感じたことを憶えています。
今は日本を代表する舞踊家の一人として日々精進する姿に頭が下がります。
そんな祐子さんから第1回「游の会」を実家の大橋茶寮でとのお話をいただき、大変嬉しく、すぐにお引き受けしました。
大橋茶寮は昭和23年、祖母大橋宗輝が茶事懐石料理店して開業。
第二次大戦後の建築物ではありますが、文化財登録された数寄屋造りの木造家屋で都内では茶事茶会を行える唯一無二の存在です。
今回は日常からかけ離れた場所に身を置き、舞踊と朗読、そして一服のお茶を通じて日本文化を体感していただければ幸いです。
「一座建立」という言葉がありますが、茶席において亭主が心を尽くしてもてなし、客がその意図を汲み、感動で満たされたときに生まれる特別な一体感を表すそうです。
お越しいただいた皆様とお迎えする私共とが心を通わせ「遊の会」を作ってまいりたいと存じます。
この度、「遊の会」を通じて新たなご縁をいただきました方々に心より感謝申し上げます。
これからもずっと、祐子さんの応援団でいさせてくださいね。

大橋茶寮 鎌田るりこ

コメント

    • 西川祐子
    • 2024.09.03 10:34am

    るりこ 様

     改めて文にして思いを伝え合うことが奇妙に感じるほど、自然で身近な存在であったかと、同じような気恥ずかしさを感じています。子供のころ共に過ごした芝神谷町から麻布市兵衛町界隈にはまだ草地が残っていました。その草の生えた坂道を互いに行ったり来たりしていましたね。いつも入念に磨き上げられた茶寮という特別な自宅から子供がいっとき解放されるには、色々な人間が密集して忙しくうごめいている私の家の方が、反って寛ぎの場として打って付けだったのでしょうか。
     私の場合は、自宅が内弟子さんたちとの共同生活の場でしかも教育の場でもあったわけで、両親は先ず決まり事や約束を守れとのしつけ方でした。格別反抗する理由もなかったので割と真面目で堅物に見られていたかもしれません。一方、るりこさんは自然体。中学時分にはもう大人のムードでした。一緒に通っていた霊南坂教会の日曜学校の遠足で秋川渓谷へ行った時、水着も持っていないのに川に入り、皆がそれを見て堰を切ったように水に飛び込んだのを覚えています。きっと先生から叱られたと思いますが、自分の判断で決められる芯の強さが眩しく映りました。後に湯河原の老舗中の老舗旅館「加満田」の若女将となり、各方面のお客様たちと自然に接する姿を見て、身に備わった才能だなと納得したものです。
     私が自分の道を決めようとしたのは大分遅くなってのこと。大学に入り、父の計らいで花柳茂香先生に師事してからです。それまでに日本舞踊の何たるかは家で一通り習って来てはいましたが、ようやく大人に近づき、この時期に初めて自分の踊りを客観的に見るよう意識し始めました。師の踊りは、それを少しでも嗜む者に、こういう風に踊りたい、私もそのように踊ってみたいと思わせるものでした。
     さて踊りの場としては大小の劇場の他、これまで能舞台や寺院を拝借。時として路上パフォーマンスに挑戦してきました。表現者として出来るだけ多くの方々に見てもらうべく場を選ばない、と言いたいところですが、やはり場には“しつらえ”が必要です。観客が集中できるよう巧みを尽くさねばなりません。名の知れた大舞台には場として確立された雰囲気があって、観客が足を運ぶ動機の一つになっている事は間違いありません。この点では、長い時間を掛け無駄をそぎ落とした様式美を体現している茶室・茶席は、空間としては最小単位の舞台といえます。そして大橋茶寮の数寄屋造りや露地は、都心に残された日本文化の貴重な財産です。
     国立劇場などの大舞台が改修期に入った今、観客との距離を詰めた場で、表現者としての心構えや技術を今一度磨きなおそうと挑戦を開始しました。快く“舞台”を提供して下さり感謝しております。幼馴染という関係に、お互いの家業を持ち寄った新たな文化・芸能活動を加えて、お付き合いが一層深まり広がって行く事が何より嬉しく今後の展開が楽しみです。

    西川祐子

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